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私の部屋から歩いて5分のところに、「BANTEAY SREY」というレストランがあります。ほとんど毎日のように前を通っていたのに、これまで気に留めることもありませんでした。そもそも地味な造りだし、界隈はレストランだらけだったからです。

バンテアイ・スレイというのは、アンコール・ワットから北東に40キロほど行ったところにある小型の寺院遺跡ですが、レリーフの美しさと保存状態の良さで有名です。どれくらい美しいかというと、後に“東洋のモナ・リザ”と呼ばれるようになった女神像を、1923年に、アンドレ・マルローがフランスに持ち出そうとして逮捕された、というウソのようなホントの話があるくらいに魅惑的なのです。彼の『王道』という小説は、この事件をモチーフに書かれたものだそうです。

で、この BANTEAY SREY RESTAURANT に、一ノ瀬泰造がよく通っていたと、つい一昨日ガイドブックで見て、さっそくやってきました。

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入り口を入って右手の部屋に入ると、何枚かの写真が飾ってあり、それはTAIZOのものであるということはすぐにわかりました。写真はすべて、お母さんの一ノ瀬信子さんから贈られたものだそうです。

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現存している限りでは、TAIZOが最後に撮ったといわれている写真。ジャングルの向こうに頭を出しているアンコール・ワットへ潜入し、26年の自らの命と引き換えに、大伽藍の写真もたくさん撮ったはずです。もちろんそれらを目にすることはできません。

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メニューファイルの中に、こんな1枚が差し込まれていました。ああ、彼はここに座って、こんなものを食べていたのかと、40年くらい前のにおいまでもがじんわりと立ち上ってくるようで、とても不思議な気持ちにさせられました。

ランチタイムだったので、スープと麺料理を頼んだだけでしたが、さすがに老舗の味、TAIZOが愛した、というのもよく納得のできる味でした。観光客よりも、むしろ現地の人たちで賑わっている店のようです。

全体の雰囲気として、決してTAIZOをウリにしているわけではなく、むしろ彼のことを忘れないように、大切に記憶を保存してくれているような感じでした。店造りは簡素で、お値段も控えめ、働いている人もいい感じで、TAIZOを知らない若い人たちにもお勧めのレストランです。

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