シェムリアップからアンコール・トムの傍らを通って北上すること1時間あまりで、クメール伝統織物研究所-「伝統の森」に到着します。ここは、森本喜久男さんという京都の手描き友禅の職人だった人が、内戦の中で失われかけていたクメールの伝統技術を残し、再生するために、2003年から開墾に取り組んできた地域です。現在村の広さは23ha、中心部に織と染の工房を持ち、養蚕から機織り、括り、染色などすべての工程をこなし、養蚕に必要な桑や染色に使う天然素材の栽培などもすべて村内で自給されています。伝統の絹絣の高度な技術を持つ人たちが、遠く離れた村外から家族で移住して日常生活を共にし、現人口は、子どもたちを含めて90人ほど。村内に公認の小学校もあります。

この村に行って、工房と森を見学し、それぞれ自分で絹のハンカチを染める、という体験ツアーに行ってきました。大阪からやって来た、シニア女性5人組と一緒です。

天然の絹糸は、こんなに鮮やかな黄色です。
染料にする樹皮を細かく砕く。
ベースとなる絹布を織る。
コットンを紡いでいるところ。これができる人がどんどんいなくなっているそうです。
伝統のクメール絹絣。
お客さんが持ち込んだコットン。ここで染色だけでもできます。

さて、私たちはいわゆる「絞り染」に挑戦。おばちゃんたちに手伝ってもらいながら、それぞれ自分のアイデアといっても、みな初めての経験で、できあがってみないとわからないのですが、白いハンカチをつまんで、ビニールひもであれこれぐるぐる縛ってみました。そしてまずは、それを黄色く染めます。

私も一緒に絞って(括り、という作業)いたので、途中の写真を撮り損ねてしまいましたが、黄色く染まったハンカチを再び絞って、もう一度染めると、今度はそこが渋い深緑色に染まりました。

2度染めてから、縛ったビニールテープをほどくと、こんな感じ。最初に縛った部分は白で、2番目に縛った部分は黄色に、縛らなかった部分が深緑色になります。

日本にも「鹿の子絞り」などという意匠がありますが、あんなに細かい模様を出すためには、いったいどれだけの括りをするものか?ハンカチ1枚でもこんなに大変なのに、1反という長さの布をひとつひとつ括って行くという、気の遠くなるような作業はいかばかりかと、手染の反物が高い理由が、よ~~~っくわかりました。

これが私の作品。
それぞれ自作品を手に「伝統の森」にお別れ。

集落の外側には、森と湿地がひろがり、じっと聞き耳を立てていると、さまざまな昆虫や小動物たちが蠢いているのがわかります。

「伝統は守るものではなく、創ってゆくもの」という、すでに故人となられた森本さんの言葉に倣うならば、この自然循環型の小さな村は、「伝統の森」ではなく、やはり今現在も進行中の「伝統の森計画」がふさわしい呼び名だと思いました。